魔法使いと白いフクロウ
序章
ファミリアスピリットアニマルという言葉をご存知?
かの有名な大魔法使い様も、見習い研修中のひよっこ魔女にも、いつも、どんな時にも、側で寄り添う動物たちがいるのです。
これは、とっておきの力を使って、あなただけのSpirit Animalに出会わせてくれる、そんなアクセサリー職人の工房でおこる不思議な物語です。
今日も、その森、奥深い工房へ迷い込んだ人がいるようです……。
さて、どんな物語が飛び出すか、このページをめくってみましょう。
あるところに、不思議な力を持つアクセサリーをつくる女の子がいました。
彼女が心を込めてつくった動物のアクセサリーは 身につける人に眠る本当の姿と重なると、その力を発揮して 時に寄り添い、時には希望となり、それぞれのゆくべき道を ともに歩いてくれるのです。
人々はそれを「Familiar Spirit Animal」と呼んでいます。
第2章
しっこくのやみのなか、三日月がひとつだけ、美しく輝く夜でした。
ふくろうは、宿り木に止まって、向こうからくる女の子を見ていました。
こんな時分に、
こんなところに来るなんて……
ホーホホホ……
女の子は悲しみにくれていました。
大好きな恋人が、原因不明の病に倒れてしまったのです。
ものしりで有名なおばあさんが月の輝く夜にだけ、森深くに咲くというましろき花のつゆ汁がこの病に効くかもしれないと言うのでした。
けれども、女の子には、そんなもの見たこともなければ、聞いたこともなく、まったく見当がつきません。
途方に暮れて、トボトボといっぽんつづく道をあるいてきたのでした。
ホーホホホ……
おじょうさん、どうしたんだい?
ふくろうがたずねました。
女の子は、愛しい恋人の境遇を話して伝えました。
私に知恵があったなら、私に賢さがあったなら、このくらやみの中でも、ましろき花をみつけることができるに……
そういって、泣き出す女の子。
瞳からこぼれた涙は、月夜にてらされたクリスタルのようです。
なるほど……
ひとこと、そう言って、ふくろうは闇夜に飛んでいきました。
くらやみの森の中、どのくらい歩いたことでしょう。
歩きつかれたそのころに道の向こうにぼんやり明かりが見えました。
心の中に灯火がともったような氣持ちになって女の子はその明かりが灯る小さな小さな家の扉をたたきました。
コツコツコツ……
「ごめんください」
「はい、どうぞ」
第3章
扉を開けると、そこには女の子と同じくらいの女の子が色とりどりの石やレースやリボン、とても美しいものたちがちらばった机を前にして座っていました。
足元には、犬にも猫にも、うさぎにも似た2匹のふたごの生き物がおとなしく座ってこちらを見ています。
「ちょうど、あなたにぴったりのアクセサリーができあがったわ」
イスから立ち上がり、その女の子が言いました。
手にしていたのはふくろうのカタチのブローチ。
(どことなく、森で出会ったあのふくろうに似ています)
これは、あなたのための
Familiar Spirit Animal
OWL
「森の賢者ふくろうは、あなたとともに」
さっそく、そのブローチを悲しみにくれていた女の子は左の胸につけてみました。
するとどうでしょう。
彼女の姿は、美しい白いふくろうに……。
自分の中の悲しみにくれ、その感情に支配されてしまうより、空へと天高く森のすみずみまで見渡しましょう。
氣高き白い羽をはばたかせ、一瞬にして空へと飛びだっていきました。
あのこはきっとすぐさまましろき花をみつけて愛しい人のもとへ飛んでいくよ。
これからは、賢者のふくろうがいつでも側にいる。
どんな時も、自分の中にある。豊かさを忘れることはないだろう。それが賢さというものだから。
また、作業机へと向き直り女の子はものづくりをはじめました。
2匹の生き物が、大きくあくびをしたときまっくろやみよに浮かぶ美しい三日月から女の子がながした涙のようなクリスタルがひとつぶ、森へと落ちていきましたとさ。
さて、このクリスタルでまた次に来る人のFamiliar Spirit Animalをこしらえるとしましょう。
fin!
Canapeの朗読